
(チリ側パタゴニアを代表する景勝地、パイネ国立公園にて。)
今から数万年前、南北アメリカ大陸とアジア大陸は地続きだった。その時代は氷河期という名が示すとおり、水が氷河の形で陸地に蓄えられた結果、海水面が低下して水深の浅いベーリング海峡は干上がっていたと考えられるからだ。
その陸続きになったベーリング海峡を渡って、僕たちの祖先は新大陸に向けてはるかな旅を始めた。コロンブスの新大陸発見から遡ること数万年、グレート・ジャーニーの始まりだ。
吹雪舞うアラスカの原野、砂埃舞う北米の荒野、中南米の密林と焼け付くような太陽。まだ誰の目にも触れたことのない風景の中を彼らは旅した。ある者はそれぞれの場所を約束の地と定め、そこで一生を終えただろう。だがある者は何かに突き動かされるように、未知の土地へと旅を続けた。旅の途中で病に倒れた者もあったかも知れない。
そうやって何世代にも渡る旅を続けた彼らは、やがて南アメリカ大陸最南端の地、パタゴニアに到着した。今からおよそ1万3千年前のことだったと考えられている。その先は南極へと続く「吠える海」ドレーク海峡。彼らの旅はそこで終わったのだ。
彼らが数万年をかけて旅をした行程を、現代の旅人はわずか40時間程度で旅する。彼らがかけた歳月に比べれば一瞬ともいえる時間だ。彼らが目にした風景と現代の旅人がジェット機で飛んだ風景とは、同じ風景であっても異なるものかも知れない。だが分刻みの日常に追われる僕たちにしてみれば、はるかな風景であることには変わりはない。

ホテル・モンテカルロ
関西空港からロス、マイアミ、サンチャゴと乗り継ぎ、チリ側パタゴニアの代表都市、プンタ・アレイナスにたどり着く。合計40時間に及ぶ空の旅で、体内時計はもうめちゃくちゃだ。時計を見ると午後4時、もうこれは飯食って寝るしかないということで、椎名誠が泊ったという、ホテル・モンテカルロを探してチェックイン。部屋に入るとほぼ同時に寝てしまった。目覚めるとちょうど朝8時ぐらい、連続15時間ほど寝ていたことになるが、おかげで時差ボケすっきり快調だ。

マゼラン像
チリ側パタゴニアの玄関口、プンタ・アレイナスのアルマス広場にあるマゼラン像。てっぺんで大砲に跨ってふんぞり返っているのがマゼラン。その下の台座に腰掛けているのがパタゴニア先住民族、アラカルフ族の漁師。

アラカルフ族の足に触れる
このアラカルフ族の足に触れると、航海を無事に終えることが出来るという言い伝えがあるらしい。私も早速そのでかい足に触れてみる。みんな同じ事をするらしく、足先だけ異様な光沢を放っている。

丸い街路樹
街中でよく見かけたケーキのような街路樹。樹木の剪定にもお国柄というものがあるようだ。

遠くにパイネ山塊を望む
プンタ・アレイナスからバスでプエルト・ナタレスに移動、チリ側パタゴニアを代表する景勝地、パイネ国立公園に赴く。公共交通機関はないので、現地の旅行会社で現地ツアーを申し込む。街を出て数時間、何もない荒野を突っ走ると、目の前に巨大な山塊が現れた。

グアナコの群れ
パタゴニアでよく見かける動物、グアナコさんの群れ。ラクダとラバの中間みたいな、何となくホンワカとした雰囲気を感じさせる生き物だ。

遠くを見るグアナコさん
休憩中のグアナコさんを後ろからパシャリ。おしりがかわいい。

パイネ・グランデ
駐車場に車を停めて、数時間のトレッキングツアーに出かける。これぞパタゴニアという感じの風景に心が躍る。中央に聳えるのはパイネ山塊最高峰、パイネ・グランデ。脇に見える滝はサルト・グランデ。

パイネの角
パタゴニアの大地は氷食地形である。やわらかい地面はことごとく氷河によって削られ、凹凸の少ない、なだらかな大地となる反面、「私は何としても山である。誰が何と言おうと山である」という頑固な岩ほどその輪郭が研ぎ澄まされ、こんな風にその鋭さを際立たせるのだ。

ぺオエ湖
奇跡のように美しい湖、ペオエ湖。湖水が白く濁っているのは上流に氷河がある証拠だ。氷河によって岩がパウダー状に削られた結果水中でも沈殿せずに漂うため、こんな美しい青みを帯びた乳白色になる。

アルゼンチン国境
プエルト・ナタレスからアルゼンチン側に移動する。国境は至ってシンプル。パタゴニアはチリ・アルゼンチン両国にまたがっているので、この後何度も国境を通ることになる。

車窓から
パタゴニアでの移動手段は都市間バスだ。街と街の間は300キロぐらい離れていて、その間は本当に「何もない」荒野。地面を軽く整地しただけの道路を砂ぼこりを立てて突っ走る。

フィッツ・ロイへの道
エル・カラファテを経由して、長距離バスに揺られること6時間、フィッツロイ最寄りの村、エル・チャルテンにたどり着く。時間も遅かったのでそのまま投宿して寝てしまう。翌日は天候もよく、フィッツロイの麓までトレッキングだ。

フィッツロイへの道
エルチャルテンからフィッツロイに向かうトレッキング道。典型的な氷食地形である、U字谷だ。かつてはここを氷河が埋め尽くし、谷を抉った歴史があったということ。

人馬分離標識
このトレッキング道は人だけでなく荷物運搬用に馬も通る。なので馬糞が道中いたるところに転がっており、コイツが放つニオイが強烈で、それを狙ったハエのデカさもまた超弩級。ついでにニンゲンもターゲットとするらしく、始終まとわりついて実に鬱陶しい。いやはや、本当の自然というものは、単に「キレイねえ」だけで終わらないのだ。

斜めになった木
パタゴニアは常に強風が吹いているので木がまっすぐに育たず、こんな風に斜めに育つらしい。

名峰・フィッツ・ロイ
エル・チャルテン村から4時間ほどトレッキング、フィッツロイの麓までたどり着いた。道すがらずっと雲がかかっていて姿が見えなかったのだが、この時だけは雲が切れて写真に収めることができた。

宿の中庭で
トレッキングから帰ってきて、シャワー浴びて中庭でビールを一杯。左下に少しだけ写ってるのがアルゼンチンでメジャーなビール"Quilmes"。なんで全部フレームに入れなかったのか、私は。

エル・カラファテの街並み
エル・チャルテンからカラファテに戻ってきた。飛行機の出発時間まで間があるので街を散策する。

教会のようす
街中にあった教会を見学させてもらう。何という教会だったかは記憶に残っていないが、美しい建物だ。
「Yo soy la vida, el camino y la verdad.」=「私は道であり、真理であり、命である」ヨハネ14:6

空港に向かう途上で
空港に向かうタクシーが途中でパンクしてしまった。運転手氏が懸命に修復を試みるが、交換したタイヤもダメっぽい。あきらめた運転手氏は通りを走っている別のタクシーを捕まえて乗せてくれた。あのあと無事に復旧できたかなあ。

ウシュワイアに向かう飛行機の窓から
エルカラファテから空路ウシュワイアに向かう。何の拍子か、人生初のビジネスクラスがあてがわれて快適だ。窓からは雪を抱いた山々が見える。

サンタペンギン
南極に近いこともあってか、土産物屋の店頭にはコウテイペンギンがいた。クリスマス直後だったからか、サンタのコスプレをしている。

ペンギン一家の団欒
こっちではテーブルを囲んで一家団欒のご様子

ウシュワイアの街並み
ウシュワイアの街並み。こんなふうに山がすぐ近くまで迫っていて、平地に乏しい地形となっている。

港の様子
港には南極行き?らしき船が泊まっていた。

海から眺めたウシュアイアの街
ペンギン観察ツアーの船から眺めたウシュアイアの街。山が近く神戸の街を思い起こさせる。低山にもかかわらず森林限界が低く、雪をかぶっているのは高緯度地方である証。言い忘れたが、ここがかの有名なビーグル水道だ。

マゼランペンギンの営巣地の様子
一時間ほど船に揺られてマゼランペンギンの営巣地に近づく。野生のペンギンを見るのはこれが初めてだ。彼らはこれが自然なのだろうが、なんともユーモラスな姿に顔がほころぶ。

クローズアップ
ペンギンさんをクローズアップ。こちらを見ているような気もする。

ん、お前誰だ?
昼食のため上陸した桟橋の近くに牧場があった。その中にひときわ目立つ白い馬がいた。

ツアーボート
ツアーボートの様子。

高台の公園から海を見る
高台にある公園からウシュアイアの街越しに海を見る。写真にあるようにウシュアイアの街はあちこちに咲いているルピナスが印象的だ。

夕陽に映えるウシュアイアの街
夕陽に映えるウシュアイアの街。緯度が高いこともあり結構遅い時間だったように思う。

ウシュワイア=マルビナス・アルヘンティーナス空港
ウシュワイアから空路エル・カラファテに戻る。空港のロビーは御覧の通り木をふんだんに使った構造になっているのが特徴的だ。

ペリト・モレノ氷河
エル・カラファテでモレノ氷河トレッキングツアーに申し込む。総勢50人ほどのツアーになるが、日本人は私一人。たまに大規模な氷河崩落が見られるらしいが、しばらく眺めていてもパラパラと崩れる程度だった。

公園のようす
氷河の先端付近は公園として綺麗に整備されている。

ボートに乗り込み氷河の先端へ向かう
ツアーの参加者を載せたボートが氷河先端に近づく

氷河先端
氷河の先端。さすがに近くでみるとなかなかの迫力だ。

氷河トレッキングに向かう
桟橋で船を降り、いよいよ氷河トレッキングに向かう。

足元にはアイゼンを装着
ツアーガイドからアイゼンの貸し出しをうけ、足元に装着。"Keep your foots apart"と言われ、ふんふんと頷く。

氷の上を歩く人々
氷の上はこんな感じ。皆さん楽しそうだ。写真撮り忘れているが、この後氷河の氷を使ったロックウィスキーが振舞われた。みんなでカンパーイとやってとても盛り上がった。酒も旨かった。

氷の上の小川
溶けた水が氷の上を流れ、小川みたいになっている。水はとても透明度が高くきれいだ。

アイスクライミングのデモ
ツアーガイドがアイスクライミングのパフォーマンスデモを披露してくれた。ピッケルとアイゼンを交互に氷壁に打ち付け、ザクザクと登っていく。

さらばパタゴニア
プンタ・アレイナスに戻り、来た行程を逆にたどって帰途に就く。カラファテから戻るバスで近くに座っていたご婦人に飴玉をもらい、一瞬ここは大阪かと思う。
サンチャゴ空港にて
サンチャゴ空港でマイアミ行きの飛行機に乗り換える。空港ロビーにはスーツケースを使ったオブジェが飾られていた。チリのアーティスト、パトリック・スティーガーの作品『Legoport』とのこと。空港グラウンドスタッフの仕事を称える碑のような気もする。
これで2週間に及ぶ憧れのパタゴニアの旅が終わった。この地を旅して思ったのは、日本の田舎では「何もない」という表現をしても実際は「何かある」ものだが、ここパタゴニアでは本当に「何もない」ということだ。
街と街の間は300キロぐらい離れていて、その間は本当に何もない未舗装の荒野。そこを都市間バスが砂ぼこりを上げながら突っ走る。途中でエンストでもしようものなら
乗客全員野垂れ死にとなりかねない。
そんな荒れ果てた大地を進んだ先に現れる奇跡のように美しい風景。その美しさは、パタゴニアの過酷な自然に耐えた者のみに許される特権なのかもしれない。
1st edition in Jan.,2006
2nd edition in Jun.,2025