starwish’s diary

マイナス金利解除について

とうとう日銀が当座預金のマイナス金利を解除し、金利上昇に舵を切った。不景気の時は金利を下げてお金を借りやすくし、銀行による信用創造を増やして市場を流通する貨幣を増やすというのがこれまで人類が被ってきた厄災から得た知見であるのに、である。日銀は放っておくとすぐ金利を上げようとするから釘をさしておかないと、といったのは池田勇人だったか。だがしかし今の日本は困ったことに、この経済状態にもかかわらず市場の要求に従って金利を上げろなどという意見が、与党のみならず野党でも大勢を占めるという状況なのである。経済学というのは人の幸福を実現するためにあるのであり、一部の人の利益を守るためにあるのではない。デフレ脱却に成功というのは、街角に氾濫する百円ショップを一掃してからにしろ。

おじさんの自由研究(2)

 その昔大学で研究室に配属となって卒研にいそしんでいた時、実験装置の調整でちょっとした計算が必要になった。電卓を持っていなかったので指導教官に電卓を借りたのだが、そのキー配列をみた私は一瞬目が点になった。そこにはおなじみの「=」キーがなかった。代わりに"ENTER"という横長の謎のキーが場所をとって配置されている。加えて表示部は見慣れた液晶とは大きく異なり、怪しく光るアンバーレッド。クリック感もカチカチと使い慣れた電卓のフニャフニャした感じとは格が違うぞ。ううむ、何だこのマシンは。
commons.wikimedia.org
 しばらくその電卓らしき物体と格闘し、どうやら数を先に入れ、最後に演算子を押せば答えが出るらしいと理解した私は、何とか答えを出して教官に電卓を返却した。そのときの教官の意味深な微笑は今も忘れられない。後年それがかの有名なHPのRPN型電卓だと知り、早速コピー版のHP35sを購入した。これがそうだ。

HP35s

 RPNというのは逆ポーランド記法 (RPN: Reverse Polish Notation)と呼ばれる記法で、数値とENTERキーで計算対象の数値を指定したあとで、演算子を指定して計算するところに特徴がある。例えば1+2を計算するとき、普通の電卓だと1+2=と入れるところを、RPNだと1ENTER2+となる。計算対象の数字をあらかじめ入れておく場所をスタックといい、X,Y,Z,Tの4つがある。これらのうち基本X,Yの2つのスタックの内容が表示される(写真参照)。1+2の計算を例にとると、キー操作によってスタックは下図のように変化する。

入力 1 ENTER 2 +
説明 Xに1が入り、スタック全体が上昇、Tは破棄 XがYにコピーされ、スタック全体が上昇、Tは破棄 スタックはそのままでXに2が入る※ XとYに+を適用し、X,Yを破棄して答えをXに入れ、Tを新しいTにコピー、スタック全体が下降

※数値を入力する直前のキーがENTERだとスタック全体は変化しない
 このような仕組みによって、普通の電卓だと"M"を多用しなければならない()つきの計算が手早く行えるのが特徴だ。例えば(1+2)*(3+4)=は、1ENTER2+3ENTER4+*となる。これに対して普通の電卓の記法はALG(Algeblatic)と呼ばれる。
 ここでRPNによる計算の応用例としてプログラムを使わない(もちろん\sqrt{x}も、x^{0.5}も使わない)、基本キー操作だけを使った開平算に取り組んでみたい。開平算にもいろいろあるが、簡単なものから取り組むことにする。下図のように面積a、縦1、横aの長方形を、縦と横が同じになるように平均をとりながら、一辺が\sqrt{a}の正方形に変形していく過程をイメージして計算手順に落とし込もう。
この長方形を正方形に変形していく過程を考えると、ある時点での縦の長さをx_nに対し、横の長さは\frac{a}{x_n}になる。正方形は縦と横の長さが等しいのだから、新しいx_nの長さであるx_{n+1}は、x_n\frac{a}{x_n}の平均値になるはずだ。このような関係は次の漸化式
x_{n+1}=\frac{x_n+\frac{a}{x_n}}{2}
で表される。この式を希望する精度が出るまで繰り返せば\sqrt{a}が求まるだろう。補足しておくと、この手順はy=x^2-aの解をニュートン法を用いて求める手順と等価になっており、収束も保証されているので安心だ。
 せっかくHP35sを使うのだから、その特徴であるスタックを上手に使ってキー入力を減らしたい。手順の核となるのは漸化式の計算だが、分子にある\frac{a}{x_n}の計算が終わった段階でx_nの値は消えてしまい、x_nとの加算を行うことができない。HP35sにはスタックの値を変えずに上下シフトさせる機能もあるので、これを使ってx_nの値を割り算を行う前に保存して後から参照させる手もあるが、キー入力が増えてしまう。
 どうするかと思いながらHP35sのキートップを眺めると、LASTxという気になるキーがある。マニュアルを読むと
LAST Xレジスタはスタックの付随レジスタであり、最後の数値機能の実行前にXレジスタに記録されていた数値を保持します。
とあり、目的にばっちり適合するではないか。これを使って\frac{a}{x_n}を計算した後にx_nを最下段に入れ、加算したのち、2を手入力して割れば漸化式は完成する。あとは平方根を求めたい数ax_nの初期値である1を与え、適当な回数ループを回せば答えが求まるはずだ。
 ところがこの手順を実行すると2回目のループを回そうとしたところで最下段が0になってしまった。なぜだろうと少し考えた。ループ内部には先述のとおり演算が3回あるのに対し、数値の入力は2つしかない。これはループを一回回すごとにスタックが一つ減ることを意味する。ループ先頭の÷はax_nで割る処理なので、1回目の処理の結果スタックが1段下がり、2回目にはここでaの値にスタックの初期値である0が入ってしまったのが原因だ。なので手順を成功させるためには、ここでaの値を永久にループに供給させる仕組みが必要となる。
 幸いなことに、演算の結果スタックが下がるときには、最上段の値がコピーされるという特徴がある(スタックの動きを説明する図中、+を入力したときの処理を参照)。なので最初からスタックの最上段を平方根を求めたい数aで満たしておけば、あとはこれがコピーされるのでループにaを永久に供給することが可能になる。
 a=3として実行すると、5回ループを回ったところで最大表示桁である12桁目まで真値と一致した。ALG電卓だとメモリ機能を用いる必要があるので、もう少し煩雑な手順になるのではないかと思う。
 LASTxの入力にはシフトキーを押す必要があるので、ループを構成するキー数が6つになり、求根の過程はちょうどワルツを奏でる感じになる。調子に乗ったおじさんはBlue Danubeのリズムに乗せて計算を始めてみたはいいものの、過程は10秒程度であっけなく終わってしまった。なんとなく物足りない感じはするが、そもそも欲しかったのは簡単な手順なので、これでいいのだ。

銚子電鉄車庫で台車をみる

正月休みに銚子まで大人の遠足に出かけてきた。銚子電鉄仲ノ町車庫が150円で見学可とのことなので、普段見ることのできない床下機器、特に台車の姿を拝ませていただいた。

  • 台車その1

台車だけ放置されていたのでどんな車体を載せていたかはわからない。軸箱を連結した長い梁の上に軸ばね経由で台車枠を載せている、いわゆるイコライザー形式。通常軸ばねの間から、車体を載せる枕ばねが顔を出しているはずだが、取り外されている感じ。

台車その1
  • 台車その2
台車その2

デハ1000形、元営団2000形が履いていた台車。上の台車では軸箱を長い梁で連結していたが、梁の重さが車輪に直に伝わって軌道を痛めるという欠点をなくすため、こちらは軸箱を個別に軸ばねで支持して台車を載せている。軸箱と台車の間は軸箱支持装置でつながれていて、これが牽引力を台車に伝えている。
真ん中の大きなコイルバネが枕ばねで、これが車体の重量を支えている。走行に伴う振動によって車体は左右に揺れるが、ばねは横向きの力には弱いので、枕ばねの下にある、線路と直角方向にある梁(枕梁)が車体とともに弧を描くように揺れるようにしておき、枕ばねに横向きの力が加わらないようにしてある。この方式を揺れまくらという。揺れまくらにかかっている車体重量は、枕ばねの左右にある吊りリンクを介して台車にぶら下げる構造となっている。台車に車体重量がぶら下がっている構造上の特徴を表現して、この構造はスウィングハンガーと呼ばれる。

  • 台車その3
台車その3

デハ3000形、元京王5000形が履いている台車。上二つに比べてぐっと構造がシンプルになっている。車体が枕梁に乗り、枕梁は枕ばねを介して台車に載っている、いわゆるインダイレクト形式である。枕ばねが空気ばねに変わったことで、ある程度左右の力も吸収できるようになったので、揺れまくらが省略されているのが特徴。ただ空気ばねでは牽引力までは伝えきれないので、台車と枕梁の間をボルスタアンカーと呼ばれる装置でつないで、その役目を果たさせている。
台車自体は鉄道車両が静保存されている公園などでも間近に見ることができるが、このように様々な形式の台車を一度に見ることができて、かつしげしげ眺めていても不審者扱いされず、同好の士もいたりするこの施設は、鉄道ファンにはたまらない施設だと思う。

3000形

血糖値測定器について

母親の家系が糖尿病持ちなので、血糖値が高く、健康診断で要注意がつく。数字でいうとHbA1c:5.8、空腹時血糖が113とかである。母親の経過から察するに、このまま普通に生活しているだけで糖尿病を発症する可能性が高い。
まずは血糖値を管理しようということで測定器をネットで探してみたが、測定器+使い捨てセンサという組み合わせでないと動作せず、センサはいわゆる調剤薬局で対面でないと買えないようだ。近所の調剤薬局をあちこち探したが扱いがなく、かろうじて見つけた一軒でいろいろと手間をかけてもらって何とか購入することができた。合計1万5千円程度だった。
www.skk-net.com
あとで調べてみると、センサはEPARKでネット注文可能なようだ。
www.kusurinomadoguchi.com
ワンタッチベリオビューという測定器であれば、これが使えるらしい
www.kusurinomadoguchi.com
測定器はネットで買って、センサは上記サイトで注文すれば、受け取りに出向くいうひと手間は必要になるものの、自力で薬局を探し回る必要はなくなる。上記EParkのサービスがもう少し使いやすければ(トップ画面から検索可能にするとか)いいのだが、このままだとamazonにしてやられそうだ。

SSDが飛んだ

PCのSSDが飛んだ。突然画面が固まって動かなくなったと思ったら恐怖のブルースクリーン。リブートするとSATAに刺さっているはずのSSDが全く認識されていない。一日ほどおいてリトライしてもダメなので、あきらめてOSを再インストールすることにする。幸いドキュメント類はHDDの方にバックアップしてあったので被害は最小限で済んだが、できればシステムバックアップを取っておいた方がいいだろうな。
support.microsoft.com
AMAZONの購買履歴によると購入から3年4か月ほど経過しており、保証期間は切れている。交換はできないし、最近SSD安くなってるしということでKIOXIAのNVMe対応SSDを購入し、マザーボードの空いているM.2スロットに突っ込む。スロットによってPCIExpress3.0の接続がx2,x4と異なるので注意が必要だ。左側のビスの下にスペーサを挟んでおくのも忘れそうになるので要注意だ。

EFI画面を出すと無事認識されているようなので、Windows11のインストーラUSBメモリに落として起動、クリーンインストールした。
www.microsoft.com
最後にSSDの健康状態をチェックするアプリがあるようなので入れておく。交換直後なので元気だ。最初からこれを使ってチェックしておけばよかったのだが、後の祭りだ。他にもいろいろあるようなので、SSD使っている人は入れておいた方がいいと思う。

国債を完済する簡便な方法

国債は国の借金という、たわけた怪情報がニュースで連呼されているのに危機感を覚える。借金であれば返すのが筋なので、国債を完済する簡便な方法を思いついたので書いておく。
1 預金がある人は全額おろして日銀券にする。資産がある人は全部換金して日銀券にする
2 日銀券を全部焼却する

途中で資産価格が暴落して買い手がつかなくなる現象がおきるだろう。その場合資産を破壊し、その分の価値に相当する日銀券を焼却したことにする、などの対応が必要になるかもしれない。何をばかなと思うかもしれないが、しかしとにかく国債は返済しなければならないので仕方がない。
このような手順を踏むことで、日本国民はこう言って胸をはることができるだろう。
「これで国債はすべて返すことができた、将来世代が負うべき負債はない」
その時日本国民が生き残っていればの話だが。

snow crushを読んだ

amzn.asia
メタバースメタバースと騒がしいので遅ればせながら読んでみた。原著は92年、翻訳は98年に出ていたらしいが迂闊なことに未読であった。
これはネット上に構築された仮想空間「メタバース」に、いわゆるVRゴーグルを用いてアクセスすることで物語が進んでいくSF小説である。この「メタバース」が、メタ社(facebook)が始めるサービスコンセプトに近いという理由で本書が担ぎ出され、にわかに注目を浴びるようになったと聞く。
wikiなどにはこの類のサービスはsecond lifeが元祖みたいな書かれ方がされているが、90年代後半に流行った、いわゆる「3Dチャット」を忘れてほしくないと私は思う。VRゴーグル(当時はHMD:HeadMountDisplayといっていた)はまだ普及していないので、画面上の疑似3D空間をマウスでぐりぐり動かすというシステムだったが、各社競うようにしてサービスを展開、その一端に私もいて、朝から晩まで仲間と一緒にコードを書いていた。当時はpentiumがやっと世に出た頃、マシンも非力でネットは電話回線、アバタは平面、動きはカクカクと、今と比べるとリアリティには欠ける代物だったが、足りない分はメーカーとユーザーの溢れる熱気と想像力で補い、それでもなお余りがあった。
更に言うと「3Dチャット」も、84年に発表されたウィリアム・ギブソンSF小説ニューロマンサー」や82年公開の映画“TRON”に影響を受けていた。特に「ニューロマンサー」は、「サイバースペース(電脳空間)」という概念を初めて世に提示した記念碑的な作品で、ITに関わる人間でこれを知らない奴はモグリだといわれるぐらいの革命的な存在であった。
その「ニューロマンサー」では抽象的に描写されていた「サイバースペース」を具体的に技術的に実装して表現してみせたところに「スノウ・クラッシュ」の目新しさがあったのだろう。92年というまだまだMS-DOSが幅を利かせていた時代にこれが想像できたという筆者は、相当なパソコンおたくだったに違いなく、読んでいてニヤリとさせられる描写も多かった。ただ物語の大きなポイントである生成文法(人間が言語を操る本能)へのアプローチが文化人類学的で、「メタバース」とは関係なく展開していくところは物足りなかった。本書が書かれて以降、特に2010年代に入ってからの計算機による自然言語処理技術の進歩は目覚ましく、深層学習の結果、計算機のメモリ内に生成文法が構築されているのではないかという話もある。この辺の話をうまく取り込めれば、シリコン世界でクールな物語を紡げるのではないかとも思う。